タバコをスーッと吸い込みホッペで貯めて、
軽くポンポンと叩くと白いドーナツができます。
「このタバコとも今日でお別れと思うと悲しいよ・・・」
どうやらヨッサンは禁煙しようとしているようです。
ヨッサンは、残り10本となった箱を寂しそうに見つめました。
「もうすぐ、赤ちゃんが生まれるから
タバコやめろって、女房が言うんで・・・」
そう言われなくても、何度もヨッサンは
タバコをやめようとしましたが、
志なかばで挫折してきたのです。
「意思の弱いのはやさしい証拠。ヨシはやさしいのよ」
ヨッサンの母さんが昔言っていました・・・
そこへ、タバコをやめて半月になる先輩がやってきました。
「あのねえ・・・タバコやめるために、
飴をなめ始めたんだよ。
禁煙飴ってヤツ。
そしたら、タバコはやめられたんだけど
今度は飴がやめられなくなったんだよ」
「なるほど、そしたら
太ってきますよね」
「そうそう、それで
スポーツクラブに行こうかと」
「そしたら、お金がいりますよね」
「経済効果が上がるねえ」
「だから、電車の禁煙車が増えたのか」
「禁煙ビルもできてきたし」
「ということは、禁煙は国家的策略か」
いつのまにか二人は眉間に皺をよせて
世界経済の話にまで進んで行きました。
家に帰ったヨッサン、奥さんに
この話をすると
「タバコはね。心理学的に言うと
オッパイの代わりなのよ。
あなたは、精神的に子供なの」
「男のタバコがオッパイなら
最近、若い女の子が吸ってる
タバコは何んだよ」
「それは・・・」
どうやら胎教に悪いらしく
奥さんは話題を変えました。
とうとう最後の一本を吸い終わったヨッサン。
ちなみに最後の一本は根元までキッチリ吸いました。
仕事中、タバコがないから
お茶やお菓子を食べます。
ふと、ヨッサン考えました。
この姿、上司が見たら・・・
どう考えてもサボっているように見えるだろう。
それに比べ、タバコを吸ってる姿は
考えているように見える。
本当は何も考えていないのだが、
ううん、お菓子は甘い。でも、おいしい。
こうして、なんとか禁煙1日目を過ごしたヨッサンは、
今日一日の垢を落とすべくカラオケスナックに入りました。
「いらっしゃい・・・」
ガランとして誰もいません。意中のミカちゃんがポツンと
一人カウンターの中にいるだけです。
「今日はミカちゃんひとり?」
なんて言いながらカウンターに座ると
無意識のうちにポケットに手が伸びます。
あるはずの物がない。
「はい」
ミカちゃんがキラリと光る白い箱を置きました。
俺、禁煙してるなんていえない。
だから、泣く泣く・・・本当に泣く泣く
ここだけで一服。
「アー」
思わず吐息を漏らすヨッサンでありました。
ガンになると言われても。
精神的に子供と言われても。
お腹の赤ちゃんに悪いと言われても。
「アー」
ここだけで・・・本当に本当に・・・
アー・・・本当に・・・本当に・・・
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